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November 2006

『伝説』となりゆく事ども

時の流れが速い・・・自分が思ったような流れではなく、外部からの思惑のみで自分が左右されるのが昔から嫌いだった。

最近はネットで本やCD,DVDを注文することが多くはなったとはいえ、まだまだ書店に自ら出向くのは、書店の空気が好きなのもあるけれど、実のところ棚に並んでいる書籍の佇まいや風貌を気にしているからだ。実際、本の装丁デザインなどは檜森の本のときに勇躍、自分もやってみたけれども、限られたスペースに何を詰め込むのかとか、キャッチをどうするのかというトータルなコンセプトを要求されて、なかなか面白くもあり、また大変でもある。その意味で本の中身と、本のビジュアルが一致しているのは少ない。

そんな中で数少ないインパクトがあったのは『死霊』(埴谷雄高)の黒い装丁だった。手に取るのもおどろおどろしい真っ黒な背表紙に白く「死霊」とあったのが、70年頃の私たちの心情にマッチしていた。ついこの間まで闊達な学生だったのに、「こんなもの読むようになったんだなぁ」と、ひとしれず嘆息したものだ。
最近のお気に入りは、『昭和ジャズ喫茶伝説』(平岡正明著・平凡社2005年)の装丁であった。
「しあんくれーる」や、「ブルーノート」という私自身が身近だったジャズ喫茶などのマッチ箱の画像を散りばめて、惜しげもなく折り返しの部分に押し込んだ・・・その潔さに感動していた。


さて、昨日の日曜日に書店に行って巡り会ったのが『団塊パンチ3』(飛鳥新社=1500円)という雑誌である。 「特集1-1968年に何が起こったのか?」というのと、「特集2-ちあきなおみ伝説」というタイトルの濃さの割には、ちょっと頼りない表紙デザインが逆に気になった(笑)
「1968年」には、私はまだ大学生ではなかった・・・だからギリギリのところで私は本当の団塊の世代ではない。元祖・堺屋太一によれば、1947〜1948〜1949年生まれが正当なる団塊世代であり、私たちはさしづめ「団塊世代のしっぽ」のような世代なのかもしれない。ちなみに伴侶は二歳年上なので結果として立派な団塊世代である(笑)

どうせロクな記事はないだろうと思って読み進んでいたら、これがけっこう手応えがあったのに驚いた。1968年のことではない、「ちあきなおみ」のことなのだ。
1947年、東京・板橋に生まれた「ちあきなおみ」こと瀬川三恵子は、父が不在の家計を助けるために、なんと4歳から横浜・横須賀・九州までを駆け巡る「白鳩みえ」という芸名でタップダンサーとしてデビューしたという。三恵子は踊りだけでなく「ルイジアナ・ママ」のようなJAZZポップス系の歌もときどき酔っぱらった米兵相手に披露していたらしい。その後彼女は、芸名を目まぐるしく変えて「白鳩みえ→メリー児玉→五城ミエ→南条美恵子」と変遷し、1969年6月10日になってようやく「雨に濡れた慕情」(作詞・吉田旺、作曲・鈴木淳)で、初めて「ちあきなおみ」としてレコード・デビューした。
その芸歴の長さから言っても歌が上手いのはともかく、何を唄わせても彼女は即興で完璧な感情移入ができたという。
ここで、リアルタイムに彼女のデビュー当時を知るはずの私だが、そのずっと後になってからの「喝采」しか覚えていないのは何故だろう。コアな時代=70年初頭の私の意識が、ちあきなおみとの接点を遠ざけたのだろうか。
話を端折ってしまうのは気が引けるのだが、その後彼女は、女として「幸せになりたい」と言って、「エースの錠」こと宍戸錠に相談して、宍戸の実弟である日活アクション俳優の郷エイジと知り合い、所属レコード会社のコロムビアとの軋轢を乗り越えて結婚する。
幸せの日は永遠に続かず、夫=郷は、1992年9月に肺ガンで亡くなる、郷=55歳、ちあき44歳だった。
『団塊パンチ3』には、郷の実兄である宍戸のべらんめぇ調のインタビューもあり、何よりも愛していた弟夫婦への気遣いが優しい・・・

>「宍戸---洞ヶ谷斎場か。その時も精神科の女医に言ってやったよ。『郷の棺に一緒に入ろうとするから、見てろ』。そしたら、ちあきは泣きながら棺の中に入りたいと言った。まわりの人間が止めたけど。でも、それわかるもん、俺・・・。」・・・本当にこのとき、ちあきは「一緒に私も焼いて」と叫び続けていたそうだ。この雑誌に寄せられた寄稿文のひとつひとつが、このような切なくも優しい目線に溢れていたのが印象的だ。

これもひとつの愛のかたちであることは間違いがない。
知るよしもないことだったが、ただの歌謡曲や演歌歌手では飽き足らなかった、ちあきはあのビリー・ホリディーの曲を日本語で一人芝居したという。その後、ちあきなおみは一切のステージ、一切のライブ、一切のレコーディングをしていないという。そして彼女は、こうしてひとつの『伝説』となった・・・

私たちも同じような時代に生きて、既に伝説と化すような物語を抱えながら生きている。そういうことは伝説で済ませて良いのか・・・反問の果てには一体何が待ち受けているのだろう。今では連赤もオリオンの星も、簡単に伝説になってしまうのかと思うと、とてもやりきれない思いがする。

Dankaipunch
Jazzkissa

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